訴 状
平成11年4月6日
東京簡易裁判所 御中
事件名:損害賠償請求事件
(原告)
〒210−××××
神奈川県川崎市川崎区××××
松本 肇 印
電話番号 044−×××××××× FAX 044−××××××××
携帯電話 090−××××××××
(原告送達場所)
〒231−××××
神奈川県横浜市中区××××××××
有限会社トライアル
電話番号 045−×××××××× FAX 045−××××××××
(被告)
〒108−××××
東京都港区三田××××
慶應義塾 代表者理事 鳥居泰彦
電話番号 03−××××××××
訴訟物の価額 金50,000円
印紙額 金500円
予納郵券 金6,000円
請求の趣旨
被告は原告に対し、金50,000円およびこれに対し、訴状到達の日より完済に至るまで年5%の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決および仮執行の宣言を求める。
請求の原因
原告は、選考料10,000円、登録料30,000円、教育費70,000円、科目試験料3,000円、補助教材費5,000円の計118,000円を支払い、平成10年4月1日付で被告の慶應義塾大学経済学部通信教育課程に学士入学をした。(学籍番号98xxxxxx【領収書】
入学後、同年7月から8月にかけて4科目(経営学、会計学、商学、憲法)のレポートを作成して、被告大学に提出した。このうち、経営学と会計学の2科目については提出から2ヶ月程度で返却された。商学については同年7月29日に受理され、約5ヶ月もの期間を経過して12月24日に返却された。【商業学レポート】
そして憲法は、8月に受理されているはずであると平成11年3月29日に電話で確認(通信教育部事務局員)したが、添削はされていない旨の回答を得た。【科目試験受験受付票】
そして平成11年3月31日現在、いまだに返却されていない。 大学通信教育において、レポートの添削・返却というシステムは、スクーリング(面接授業)と並ぶ重要な要件である。このレポートの添削・返却がなされないということは、大学通信教育を行う被告としては、重大な債務不履行(履行遅滞)である。大学は、人の一生を左右することが十分にある教育機関である。たまたま原告は社会人学生であり、就職等には影響しなかったものの、こうした債務不履行によって大変な損害を被る者もいるはずである。本来は100万円くらい請求したいところであるが、その証明は困難であるので、支払った金額の一部の返還を求めることにした。
よって原告は、被告に対し、上記債務不履行に基づく損害賠償として、登録料30,000円と教育費70,000円の半額にあたる金50,000円を請求する。
以下は、訴訟を提起するに際し、この事件の背景・問題点などを記述したものである。
(大学通信教育の役割)
被告が設置している慶應義塾大学は、文部省の基準を満たした大学である。原告が思うに、大学としての最低限のサービスとは、授業を行い、学生の成果に応じた評価をして単位を与え、一定の在学年数と単位数を満たした者には学位を授与することであると考える。大学の通信教育課程(または通信教育部)とは、本来は学生が大学に来て受けていた授業を、教材とレポート提出・添削というプロセスに替えて行うものである。つまり、大学において通信教育の課程を置く以上、このレポート添削は、遅滞無く行われなければならないのである。そしてこの「遅滞無く」というのは、あくまで原告の感覚ではあるが、一般的には2ヶ月程度と思われる。(少なくとも1年間は長過ぎる)
(大学教授の最低限の義務)
ラーメン屋の店主であれば、客の注文したラーメンを常識的な時間で提供することが最低限の義務である。歌手ならば歌うことが義務であり、大学教授は学問を教え授けることが義務である。この義務を履行してこそ報酬を受け取ることができるのである。
日本全国の大学の中でも、特に慶應義塾大学において教授となり、通信教育部の添削を行うことになった者は、この添削作業を含めて教え授ける義務があることを意味する。つまり、通信教育の添削を行わない教授は、その時点で慶應義塾大学の教授たる義務を履行していないことを意味する。
こうした義務を履行されない状況の中、原告は教育費などの費用を支払わなかったために平成11年3月31日を以て除籍となった。しかし、この除籍に至る最後まで、憲法のレポート返却がなされなかった。憲法は、学問の自由、平等の精神、権利義務、学校教育、その全ての法の根幹たる役割を持つ。しかし、この科目を担当する教授が、結局のところ「教授としての義務を果たしていなかった」という点は、たいへん残念である。
(慶應義塾大学通信教育部学生の心の中)
原告は、パソコン通信やスクーリングで出会った学生に「レポート課題の返却状況」について聞いたことがある。あくまで伝聞であるし、証明することは不可能ではあるが、一般論としてお話しする。
実は慶應義塾大学の通信教育においてのレポート添削・返却のルーズさは、とても有名である。科目によっては1年以上かかって返却されることもあるといわれる。【朝日新聞1996年12月9日朝刊】
しかし学生は、大学の通信教育部の事務局に厳重に抗議することなどはしない。その理由として、
(1) そもそもレポート返却がルーズなのは、担当教授の怠慢が原因であり、事務局の職員に責任がある訳ではない。
仮に、職員を通して苦情を申し立てても、教授にはその切実な苦情が届きにくい。
(2) 苦情を申し立てても、事務職員の「教授が採点しないのだから待つより仕方がない」という一言で押し切られる。
(3) レポート添削・返却がルーズなのは今に始まったことではなく、ごく当たり前のことで、「慶應のレポート返却が遅いのは当然のこと」と諦めている点。
(4) レポートを添削し、単位を与える権限を持つ教授は、いわば神のような存在であり、この神に対し、自分の名前を出して強く抗議することは、自分の成績に大いに響くのではないかという危惧。
(5) 通学の学生と比較すれば、1人あたりの学費は非常に安いために発言権が少ないとの思い込みがある。 などが挙げられる。
(慶應義塾大学通信教育部が非常識な点)
しかし、仮に民間の通信教育で「レポートを出したのに添削・返却がいつまで待ってもなされない」ということになれば、それは「通信教育」として最低限行うべき義務を履行していないことになる。もし、これを放置しておけば、詐欺で訴えられることもあるだろう。
ところが、被告の通信教育部は、文部省の認可を受けた、れっきとした大学の通信教育であるのに、こうした詐欺行為に近いことを今でも続けており、放置している。それとも1年以上かかって返却されることが常識なのであろうか。
(和解案)
被告が以下の2点を遵守する旨を約すれば、原告は和解に応ずるつもりである。
(1) 今後、被告大学の大学通信教育の課程において、レポート受理より2ヶ月以内に、学生
へ返却する。この間の返却がなされない場合、受理後2ヶ月経過を以てこのレポート課題は「合格したもの」として取り扱うこと。
(2) 通学課程の学生と、通信教育課程の学生との、非合理的または差別的な取り扱いの差を無くすこと。
具体的には、「2ヶ月」という一定の確定した返却期限を設けて、添削担当者たる教授に業務の遂行を促すことと、規定年数で卒業がしやすい環境を作り上げるというような、大学として当たり前のことをすれば良いだけである。
(訴訟に踏み切った経緯)
被告は、通信教育部志望者向けのパンフレットによって、福澤諭吉先生の「天ハ人ノ上ニ人ヲ造ラズ人ノ下ニ人ヲ造ラズ」という言葉によって、平等の精神を謳っている。この言葉からもわかるように、そもそも通学課程・通信課程のいずれの学生も、卒業に対しての思い入れに差は無いはずである。通学課程の学生が、「テストを受けたのに成績がついていない」などの苦情を申し立てれば、被告は当然に調査を行うであろうが、通信課程の学生に関しては「教授は忙しい、もう少し待て」という言葉だけで調査や教授への確認をしようともしない。これは、通学課程の学生の授業料と卒業率の高さと、通信課程の学生のそれの低さによる差別である。
大学通信教育は、その教育形態は通信教育であるものの、登録して学習する者にとっては、ふつうの大学とかわらず、大まじめで取り組んでいる者が多い。しかし、それを、学費が安いから、教授が忙しいからなどの理由で、大学側が怠惰な対応をしても良いという理屈は生まれない。本訴訟は、そういったまじめな学生が誰もが抱いていた疑問を、法廷という場で問いかけたいという気持ちから、行ったものである。
誰も50,000円欲しさに訴訟まで起こすことはしない。事務局員や教授に恨みがある訳でもない。1年間在籍した母校に、差別待遇を改善していただきたいという、切なる願いが込めてあることに、被告の理解を求めたい。
証拠方法
(1) 甲第一号証 領収書 1通
原告が被告に対して支払った金額を立証する。
(2) 甲第二号証 「商学」レポート 1通
返却されたレポートが、添削・返却に5ヶ月を要したことを立証する。
(3) 甲第三号証 科目試験受験受付票 1通
問題となった「憲法」のレポートが受理されていることを立証する。
(4) 甲第四号証 朝日新聞1996年12月9日記事 1通 被告の名称が記載されてはいないが、ルーズな添削を行う大学の通信教育部を批判する記事が掲載されている。
付属書類
(1) 甲第一、二、三、四号証写し 各1通
(2) 資格証明書 1通
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