※この準備書面は、現物は縦書きでした。本ページでは、横書きで掲載します。

平成11年(ハ)46××号  損害賠償請求事件

原告 松 本 肇
被告 慶應義塾

平成11年7月23日

右被告慶應義塾代理人      
弁護士 松×  × 
弁護士 梶××× 
弁護士 藤××× 
弁護士 寺××× 

東京簡易裁判所 民事第2室1係 御中

準 備 書 面 (二)

1 本件の争点
(1)原告が本件において主張するところは、訴状(2頁)、原告の平成11年5月19日付及び平成11年7月1日付の各準備書面、並びに平成11年7月1日の第2回口頭弁論における原告の解釈に照らすと、被告が運営する慶應義塾大学通信教育部(以下、本学という)の学生であった原告が、その在学中である平成10年8月頃、履修中の科目「憲法」のレポートを提出したにもかかわらず、平成11年3月末日現在まで添削・返却が行われなかったことが被告慶應の債務不履行であるというものと考えられる。
 右の事実関係並びに被告から主張された原告のその他の科目の履修状況に関する事実については、当事者間に争いがない。
 被告は、原告主張の事実関係を認めた上で、原告主張のレポートの添削・返却の遅れは債務不履行を構成しないと主張するものである。

(2)本件においては、基本的な事実関係については当事者双方に争いはなく(原告は、被告の平成11年6月21日付準備書面、第1及び第2の項記載の事実をすべて認めた)、原告と被告との間に形成されている「在学契約」(この契約関係の成立そのものについても、当事者双方に争いはない)における学校と学生との間の権利義務関係如何という、純粋の法律関係が残るだけである。
 従って、原告と被告との間の本学に関する「在学契約」において、原告と被告との間に如何なる権利義務の関係が存在し、その権利義務関係の中において、原告が指摘する「憲法」のレポートの添削・返却の遅れが被告の債務不履行を構成するか否か、という点が本件の争点というべきである。

2 「在学契約」における学校と学生との間の権利義務関係について
(1)私立学校における学生と学校当局との関係が、いわゆる「在学契約関係」と見るべきことは通説判例(東京地判昭和46・5・10判時631・29、稲本外「民法講義5・契約」(有斐閣大学双書)343頁ないし349頁(伊藤進)。兼子仁「教育法・新版」は「教育法上の特殊契約」説をとるが、内容的にはほぼ同一である)となっているが、在学契約の要点は、学校側がその保有する教育施設と教員、事務職員等により、所定の課程に従って教育を実施する義務を負い、学生側は学校の指導に服して教育を受け、授業料を納付する義務を負う点にある。また、その契約が附合契約的な性格を有することも通説判例とされているところである。
 また、学校側が施す教育の内容に関しては特段の制約がなく、公的に定められた施設及び教育内容の基準を満たす限り、学校側の教育的裁量に委ねられており、直接在学契約上の問題とはならない。

(2)本件においては、教育実施の過程における提出レポートの添削と返却が問題となっているが、そのこと自体は、右に述べた教育的裁量の範囲に属する問題であって、在学契約上の債務不履行を構成する余地はない。
 しかし、本学の学則上(乙第一号証203頁以下の「学則」第36条ないし第38条参照)、各科目におけるレポートの提出とその評価にかかる手続は当該科目の履修を終了したと認めるいわゆる「単位認定」にかかわる問題であり、その限りにおいては単なる教育的裁量の問題を越える面を有していると考えられる。
 在学契約上、学校は、学生が当該学校の課程を修了したかどうかを認定する義務(卒業認定)を負担していると考えられる。現在の学校教育法等の法制上、学校を卒業したかどうかの事実は、学生が卒業後社会で活動していく上において要求される様々な「資格」に関連付けられているものであって、「卒業認定」を適切に受けられるかどうかは、在学契約を締結した学生にとって最も重大な関心事といえるであろう。
 「卒業認定」は「単位認定」の積み重ねの上に立って行われるものであるから、「単位認定」はその限りにおいて在学契約上の問題に関連しているといえる。

(3)本件において、もし、原告の指摘する憲法のレポートの添削・返却の遅れが右の意味での「単位認定」に影響を及ぼしているときは、在学契約上の債務不履行の問題を生ずる余地がある(それが直ちに損害賠償請求の根拠となるかどうかは別問題である)。
 この点については、既に被告が指摘し原告もその事実関係を認めたとおり、原告は本件の憲法レポートの提出後に3回にわたり実施された憲法の科目試験を受験していないか、受験しても不合格となっているのであるから、提出したレポートの評価の如何(合否)にかかわらず、平成11年3月末日までに憲法の「単位認定」を受ける余地がなかったことは明らかである。
 また、原告は他の科目についても殆ど「単位認定」を受けるだけの学習成果示しておらず、また第2年分の学費を納入しないことによって平成11年3月末日までには原告と被告との間の本件在学契約は終了しており(この点についても当事者間に争いはない)、現時点で憲法のレポートの返却の遅れを右単位認定ないし卒業認定にかかわるものとして問題とする余地もないといえる。

(4)以上のとおり、原告の請求原因となっている事実は原則として在学契約上の債務不履行になじまない問題であり、且つ、本件の場合においては「単位認定」との関連において債務不履行を検討する余地もないのであるから、本件請求は棄却されるべきものである。

3 原告が提起したレポートの返却時期の遅れに関する問題は、右に述べたとおり、本来訴訟による解決になじまない性質のものであるが、念の為に一言する。
 本学において、一部の科目で、提出されたレポートの返却が遅れがみられることは事実である。被告は、本学運営上、一部の科目であってもレポート返却が遅れが見られることを遺憾としており、レポートの早期の添削・返却が行われるように種々の対策を講じてきたものであって、レポート返却の遅れを当然のこととして容認してきたものではなく、現在も適切な時期にレポートが返却されるように留意しているものである。

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