平成11年(ハ)46××号  損害賠償請求事件

原告 松 本 肇
被告 慶應義塾

平成11年6月21日

右被告慶應義塾代理人      
弁護士 松×  × 
弁護士 梶××× 
弁護士 藤××× 
弁護士 寺××× 

東京簡易裁判所
 民事第2室1係B 御中

準 備 書 面

第1、被告大学通信教育課程における「学習過程」
 1、被告大学における通信教育の学習方法には、次の2つの型と卒業論文指導とがある(乙第1号証84頁)。
(1)、通信授業(テキスト科目)による学習。
(2)、面接授業(スクーリング)による学習。
(3)、放送授業による学習。
(4)、卒業論文の個別指導。

 2、そのうち、本件において主として問題となる「通信授業(テキスト科目)による単位修得までの流れ」は以下の通りである(乙第1号証86頁)。


テキストの配本
 ↓
テキスト学習
レポート作成  ←←←不合格
 ↓              ↑
レポート提出  →→→レポート添削
 ↓              ↓
科目試験受験申込    合格
 ↓              ↓
科目試験受験         ↓
 ↓              ↓
試験結果通知        ↓
 ↓              ↓
単位修得 ←←←←←←←

 3、レポート提出と科目試験受験との関係
(1)レポートはいつでも提出できるが、各科目試験ごとにレポート提出締切日(消印有効)が設定されており、科目試験を受験するためには、受験する科目のレポートを当該試験のレポート提出締切日までに提出することが必要である。平成10年度の科目試験受験のためのレポート提出締切日は以下のとおりである(乙第2号証「ニューズレター慶應通信」1998年4月号)。
                       記
平成10年6月科目試験のレポート提出締切日:平成10年4月30日(消印有効)
平成10年9月科目試験のレポート提出締切日:平成10年7月22日(消印有効)
平成10年11月科目試験のレポート提出締切日:平成10年10月2日(消印有効)
平成11年1月科目試験のレポート提出締切日:平成10年12月4日(消印有効)
平成11年3月科目試験のレポート提出締切日:平成11年2月19日(消印有効)

(2)受験する科目のレポートがこれらのレポート提出締切日までに受け付けられないときは、テキストの学習が終わっていないものとみなすため、科目試験の受験は認められない。しかし、レポートがレポート提出締切日までに受け付けられているときは、科目試験受験時までにそのレポートが返却されていなくても、科目試験の受験は有効である。そして、レポートと科目試験とが共に合格したときに単位修得となり、いずれか一方が不合格のときは、単位修得とはならない。

第2、原告のレポート提出と科目試験受験。
 上記のような制度のもとにおいて、原告の行った学習活動は以下のとおりである。
1、「経営学(E)」について
(1)原告は「経営学(E)」のレポートを平成10年7月23日に提出(大学受付)し、同年9月12日・13日の科目試験の受験申込を行ったが、同科目試験のレポート提出締切日より1日経過していたため、同年9月の科目試験は「レポート未提出」として受験が認められなかった。
(2)その後、同年10月9日、同科目のレポートは不合格として返送されたので、6ヶ月以内に、すなわち平成11年4月8日までに再提出する機会を与えられていたが、在学期間中、同科目のレポートが再提出されることはなかった。
(3)同科目の受験の機会は、その後、平成10年11月、平成11年1月および3月の3回があり、原告はそのうちの平成10年11月と平成11年3月に受験の申込を行い、その申込に基づいて受験の許可が与えられていたが、いずれも受験しなかった。このように、レポートが再提出されず、科目試験の受験もなされなかったため、同科目の単位は未修得に終わった。

2、「会計学(E)」について
(1)原告は、「会計学(E)」のレポートを平成10年7月28日に提出(大学受付)し、同年9月12日・13日の科目試験の受験申込を行ったが、同科目試験のレポート提出締切日より6日経過していたため、同年9月の科目試験は「レポート未提出」として受験が認められなかった。
(2)その後、同年8月21日、同科目のレポートは合格し、返送された。
(3)同科目試験の受験の機会は、その後、同年11月、平成11年1月および3月の3回があり、原告はそのうちの平成10年11月と平成11年3月に受験の申込を行い、その申込に基づいて受験の許可が与えられていたが、いずれも受験をしなかった。このように、レポートが合格していたのにもかかわらず、科目試験の受験がなされなかったため、同科目の単位は未修得に終わった。


3、「商業学」について
(1)原告は、「商業学」のレポートを平成10年7月29日に提出(大学受付)し、同年9月12日・13日の科目試験の受験申込を行ったが、同科目試験のレポート提出締切日より7日経過していたため、9月の科目試験は「レポート未提出」として受験が認められなかった。
(2)その後、同年12月24日、同科目のレポートは合格し、返送された。
(3)上記2の場合と同様、同科目試験の受験の機会は、その後、同年11月、平成11年1月および3月の3回があり、原告はそのうちの平成10年11月と平成11年3月に受験の申込を行い、その申込に基づいて受験の許可が与えられていたが、いずれも受験をしなかった。このように、レポートが合格していたにもかかわらず、科目試験の受験がなされなかったため、同科目の単位は未修得に終わった。

4、「憲法(E)」について
(1)原告は、「憲法(E)」のレポートを平成10年8月3日に提出(大学受付)し、同年9月12日・13日の科目試験の受験申込を行ったが、同科目試験のレポート提出締切日より12日経過していたため、同年9月の科目試験は「レポート未提出」として受験が認められなかった。
(2)その後、平成11年5月19日、同科目のレポートは合格し、返却された。
(3)同科目試験の受験の機会は、平成10年11月、平成11年1月および3月の3回があり、原告はそのうちの平成10年11月と平成11年3月に受験の申込を行い、その申込に基づいて受験の許可が与えられていたが、原告は平成10年11月には受験せず、平成11年3月に受験した。同年3月の科目試験は不合格であった。
(4)このように、同科目のレポートは、原告の学費未納によって結果的に原告の在籍期限となった平成11年3月31日までには返却されなかったものの、平成11年3月の当該科目試験が不合格となったため、同科目の単位は未修得に終わった。


5、その他の科目について
(1)原告には、在学期間中、上記4科目以外にも学習することが可能な通信授業科目として、17科目のテキストが配本されていた。それらについて単位を修得する意思があるときは、前述のレポート提出締切日までにレポートを提出し、科目試験を受験することができる(レポート提出を免除されている「英語」4科目と「統計学(A)」との計5科目については、科目試験を受験するだけでよい)。
 しかし、原告は平成10年9月に「経済数学」、同年11月に「経済原論(初回)(E)」・「地理学I(E)」、平成11年3月に「財政論(E)」の計4科目において、レポートを全く提出することをしないまま、科目試験の受験を申し込むという行為をしている。
 このほか、原告はまだテキストが配本されていない科目、つまりレポートを提出する資格すらない「統計学(E)」について、平成10年9月および平成11年3月の2回にわたり、科目試験受験の申込を行っている。
(2)レポートを提出しなければ科目試験を受験できないということは、「塾生案内」(乙第1号証110頁)や原告が記入し提出した科目試験受験申込書に明記されている事柄であり、テキストが配本されていなければレポートを提出できないことも「塾生案内」に明記されている事柄である。これらのことについて原告は、次のように別の形でも知る機会があった。すなわち、原告宛てに郵送された平成10年9月の科目試験受験受付票において、「統計学(E)」は未配本科目のため不許可である旨が「備考」欄に書かれていた(乙第3号証の1ないし3)が、その後も原告は平成11年3月に、再びテキスト未配本・レポートは提出のまま科目試験の受験申込を行っている。また、平成10年9月の科目試験受験受付票においては「経済数学」についてレポート未提出のため不許可である旨が「備考」欄に書かれており(同号証)、科目試験はレポートが提出されなければ受験できないことはそれによっても明白であったが、その後も原告は平成10年11月と平成11年3月の2回にわたり、計3科目について、レポートを全く提出しないまま科目試験の受験申込を行っている。このように原告は、数箇所にわたり記載されていることや科目試験受験申込に対する注意書きに対しても無頓着に、繰り返し誤った科目受験申込を行っている。


6、原告の面接授業(スクーリング)の履修状況
(1)原告は、被告大学の下記スクーリング第I期(平成10年7月23日から同年7月30日)において午前開講の「マーケティング論」を受講したが、評価は不合格であり、
(2)夏期スクーリング第II期(平成10年7月31日から同年8月7日)において午後開講の「経済原論」を受講したが、評価は不合格であり、
(3)夜間スクーリング(平成10年9月22日から同年12月9日)において、毎週水曜日に開講の「財務諸表論」を受講していたが、評価は不合格であり、
(4)同期間中の夜間スクーリングにおいて、毎週金曜日に開講の「図書館・情報学(図書館と地域研究)」を受講していたが、評価は合格であった。

第3、被告大学の主張
1、被告大学における通信教育の学習方法は、前述のとおり、通信授業(テキスト科目)による方法、面接授業(スクーリング)による方法、放送授業による方法並びに卒業論文の個別指導、とがあり、学生はこれらの方法を適宜選択・組み合わせて学習を行い、必要単位を修得して卒業となる。
 このうち、本件では通信授業(テキスト科目)による方法が問題となっているが、通信授業(テキスト科目)による方法においては、テキストそれ自体が通学過程でいえば教室における講義にあたるもので、学生は、まず、配布されたテキストを自宅で学習することが求められる。次いで、各科目において予め指定されたレポート課題に基づいて学習することが求められている。
 レポート提出の段階まで学習を進めてきた者については、科目試験の受験資格が与えられ、科目試験を受験することとなる。単位の修得については、提出されたレポートの評価と科目試験の成績によって、当該科目の合否の判定を行うこととなっている(これらの手順の詳細は前述のとおりである)。
 学生にレポート課題を与え、それによりレポートを作成させることはそれ自体に教育・学習の効果が期待されており、これによって学習状況の評価を行うものとなっているのであるから、レポートの添削・返却それ自体は被告大学における通信による教育の一過程であり、どの程度まで、またどのような点について添削を行うか、どの段階で返却するか、等の点は、主と
して担当教員の裁量に任された事柄である。
 従って、提出されたレポートの取り扱いは、成績評価に必要な期間内に担当教員の添削・返却が行われればよく、レポートの提出や返却をめぐって学生と大学との間の債務不履行が問題となるとすれば、レポートの添削・返却の遅滞によって当該科目の成績評価が適切な時期に行われず、それによって実質的な不利益を生ずる場合に限られることである。
 本件の場合、前述のとおり、問題の「憲法(E)」については、原告は当該レポートの提出時期に応じた科目試験には結局合格しておらず、上述のような大学側の債務不履行を問題とする余地もなく、これにつき損害が発生することもないのである。

2、前記第2において述べたとおり、原告は
(1)レポートを提出しないため、あるいはテキストが配本されていないため受験資格のない科目について、述べ10科目にわたり受験申込をなし、
(2)レポートを提出したことにより受験資格のある科目についても、述べ8科目にわたり受験申込をしながら、在学期間中受験した試験は1科目のみであり、
(3)不合格として返却されたレポートについても十分な在籍期間がある間に再提出を行っていないのである。
 原告のこのような学習状況からは、単位を修得しようとする大学生としての基本姿勢や真摯な学習態度は伺えないことである。
 また、前述の受験申込状況からわかるように、原告は提出したレポートの返却時期にかかわらず、科目試験の受験申込ができることを承知しており、レポートの返却が遅いために単位が修得できなかったというものではなく、原告が試験を受けなかったり、あるいは試験で不合格になったために、単位取得に到らなかったものであって、原告に何ら損害も生じていないことである。

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